クリプト道場

クリプト・ブロックチェーンに関わる疑問を解説します

ベアマーケットの中でAlgorandのTVLがここ一ヶ月で大好調な理由

2022/7/13撮影のDefiLlama

ここ数ヶ月のベアマーケットを経て、ほぼ全てのチェーンのTVLは大下落をしており、DefiLlamaは真っ赤である。そんな中、TVLランキングで21位(2022/7/13撮影)のAlgorandはトップ30のチェーンの中で唯一過去30日、7日、1日のTVLの成長がプラスである。

AlgorandのTVLの内訳を調査してみると、どうやら成長を引っ張っているのは2位のFolks FinanceというLendingプラットフォームということがわかる。

どうやら、そのFolks Financeの急成長はつい今週の日曜日(7/10)に始まったばかりであり、何が起こったのかを追求したいと思う。単純に一気に大口が資産を投入したことも考えられるが、DappRadarを見る限り、ユーザーとトランザクションも増えているため、純粋にユーザーとトランザクションの増加に伴い、TVLが増えたと考えられる。

 

Algorandのガバナンスの概要

この成長の背景には、Algorandのガバナンスシステムに被せた、Folks Financeの新しい機能がある。

Algorandでは、昨年からガバナンスの分散化を開始し、2021年10月より、ガバナンスプログラムが始動した。Algorandではガバナンス期間を3ヶ月を一つの区切りとしており、その期間中にコミュニティはガバナンスに参加することができる。ガバナンスに参加するにはネイティブトークンであるALGOをコミットする必要があり、3ヶ月の期間中にそのコミットした残高を維持できなくなってしまった場合は、ペナルティとしてガバナンス報酬を請求ができなくなってしまう。このルールを守れば、ガバナー(参加者)は期間終了後に報酬を請求することができる。投票の比重は、ガバナーのアカウントがコミット(固定)しているALGOの数に比例する。

このコミュニティガバナンスを通して決めることは、AERP(Algorand Ecosystem Resource Pool)の使い道である。AERPはAlgorandエコシステムの長期的な発展を支援するための資金であり、助成金プログラムや研究・社会的チャリティプログラム、インセンティブなどを含む。AERPの総額は、分散型ガバナンスが形成される時点で約30億ALGOとなっている。

Algo Liquid Governance

こうして始動したAlgorandのGovernance Programは今月の7月より、4期目を迎えている。ガバナーは従来、アルゴランド財団のウェブサイトを通じて直接ガバナンスにコミットし、その期間に自分のウォレット内に保持する最小限のALGO残高を固定し、その期間の後半に提案された課題に投票することになっていた。しかし、第3期と第4期では、3ヶ月間流動性を完全にロックすることなくガバナンスにコミットする新しい方法が導入されており、それがAlgo Liquid Governanceである。いわゆるLiquid Stakingの一種であり、それを最初に導入したプロトコルFolks Financeである。

Folks Financeでは、ALGOをコミットすることで、「gALGO」を同じ数量受け取ることができる。このgALGOが様々なDeFiで使用可能となっている。このようにガバナンスに参加をしつつも、他のDeFiで資産を運用することができる流動性にアクセスが可能となり、人気を集めている。

どうやら第4期が7月に始まったことから、一気にFolks Financeに資金が集まり、TVLが伸びた模様である。またgALGOを用いた高収入な運用方法も存在していることが今回の成長のドライバーである。

gALGOをALGOにスワップし、ステーキングし。。。など最適な戦略を取った際は合計で30%(四半期で7.5%)ほどのAPRを出せるとのこと。ベアマーケットの中では確かに非常に魅力的な数字である。

まとめ

以上より、Algorandにおけるここ一ヶ月の急激なTVLの伸びは、四半期に一度のコミュニティガバナンスの時期が重なり、Algo Liquid Governanceの利用が増えたことが原因といえる。また、gALGOを用いた運用機会もベアマーケットながら非常に魅力的であるということから人気を集めている。これは四半期に一度の波なのか、今後の展開で検証できると考えられる。

参考

https://coinpost.jp/?p=263891

https://pol.techtec.world/blockchain-usecase/algorand/governance

https://www.algorand-japan.com/post/algorandgovernance-beginnersguide

 

Synthetixの概要 初級者編

Synthetixは、オーストラリア発のプロジェクトであり、MakerDAOやdydxなどのサンフランシスコのインナーサークル以外から初めて生まれた本格的な規模の大きいDeFiプロジェクトである。

ここでは、Curveなどの他のDeFiとのComposabilityなどに踏み込むと、話が長くなってしまうので、そもそものSynthetixの基本機能に触れる。

基本機能

Synthetixは簡単に言うと、USドルや日本円、さらには金、ビットコインなどの様々な種類のアセットの交換を仲介者なしに実現することを目指したプロジェクトである。以下のように、USDやJPYと連動したアセットも現在取引することが可能である。

 

Synthetixの基本構造はMakerDAOと似ており、担保にしたアセットを元に、Synthetic Asset (sUSDやsETH)をmintすることが可能である。MakerDAOと異なる点は:

  • MakerDAOでは、DAIしか生成できないが、Synthetixでは通貨やコモディティなど多様なアセットが生成可能である
  • 担保にするアセットはETHではなく独自トークンのSNXだけである(現在は担保資産は増えている?)

Synthetixの担保率は500%以上であり、他のStablecoinやLendingと比べると資本効率が非常に悪いと一見は思ってしまう。

しかし、Synthetixでは、ペイメントシステムとしての役割も果たすため、発行したアセット(sUSDなど)を送金する際に、ガス代以外にSynthetix Feeという手数料がかかる。この手数料は、担保をステーキングしてるSNXホルダーが、その担保量に応じて受け取ることができる。よって、最低担保率が非常に高く、資本効率が悪い一方で、手数料を収集できると考えたら、悪い数字でもないと考えられる(トランザクション量による)。

sJPYは画像の左下の通り、0.05%の手数料がかかる

このSynthetix手数料は、スマートコントラクトによって払い出しが行われるため、取引所で行われるswapでも取引手数料は収集可能であり、是非コードでどのような挙動をしているのか見てみたいと思う。

まとめ

合成資産と聞くと、難しく感じるが、メカニズム自体はMakerDAOなどの仕組みを理解していれば非常に理解が簡単である。Synthetix手数料をスマートコントラクト内で設定することで、高い担保率であってもStakingするインセンティブを作り出す構造は非常に興味深いと言える。近々、他のDeFiとのコンポーサビリティや直近の動向も是非追ってみたいと思う。

参考

https://hashhub-research.com/articles/2019-04-04-synthetix-overview

https://hashhub-research.com/articles/2020-01-26-synthetix-activity

 

Aaveによる健全な流動性マイニングとの向き合い方とは

現在のようなクリプトの真冬の中では、Lendingプラットフォームの需要は非常に高い。DEXのようにimpermanent lossに晒されることもなく、すっかり安くなってしまった自分の資産を売らずにレバレッジをかけることができるLendingは非常に魅力的である。

2022/6/11時点のLending TVLランキング

上記が執筆時点でのDefilLamaにおけるLendingのTVLランキングであるが、トップであるAAVEとそれ以外のLendingには大きな違いが一つ存在する。それはAAVEでは、ガバナンストークン(AAVEにおける$AAVE)をDeposit(貸出)またはBorrow(借入)した際に配っていないということである。正確には、現在配っていないだけであり、過去にはAaveも配っていたことがある。ただ、Aaveと他のプロジェクトには流動性マイニングとの関わり方に大きな差が

存在する。

クリプトプロジェクトにおけるガバナンストークンはWeb2には存在しなかった画期的な存在である一方で、使い方を間違えてしまうと一気にプロジェクトを破滅に追い込んでしまう諸刃の刃である。a16zのブログにも書いてある通り、トークンは、Web2サービスにおいて存在したコールドスタート問題を解決してくれる起爆剤であり、ほとんどのLendingプラットフォームでは、DepositまたはBorrowをしたユーザーにはAPRベースでガバナンストークンを配っており、成長のドライバーとなっている。ただ、残念なことにほとんどのLendingプロジェクトによる流動性マイニングプログラムは健全とは言うことができず、お金配りによってユーザーを繋ぎ止めてるといった状況である。その中でAaveは上手に流動性マイニングを活用しており、この記事の中で概要に迫る。

そもそもAAVEとは?復習

AAVEは2020年1月にEthereum上でローンチしたLendingプロジェクトである(現在はマルチチェーンでデプロイされている)。EthereumかつLendingといえばCompoundも思いつくが、Compoundより後発ながら着実にトラクションを確保し、現在では最も使われているLendingである。両者は基本機能は同じであるが、AAVEの方が圧倒的に多機能である。例えばAAVEで初導入された固定金利システムやフラッシュローンは、大きな注目を集めた。そして、最重要項目である取り扱い銘柄については、Compoundは非常に慎重に選定するコミュニティガバナンスが機能しており、安全性を重視していると言える。Aaveが安全性を重視していないということでは決してないが、Compoundはこの点において安全性を最も重視しているプロジェクトだと言える。

AAVEの流動性マイニング変遷

AAVEのTokenomicsや成長戦略に踏み込んでしまうと、長い話になってしまうので、このブログではAAVEと流動性マイニングに話題を絞って書こうと思う。

元々Aaveのチーム・コミュニティは流動性マイニングについては否定的であり、既にオーガニックで成長しているなら必要ないという声が多かった。そんな中、2021年の4月に7月まで限定期間で、流動性マイニングプログラムが行われることが発表された。これは、流動性マイニングがAaveのエコシステムに有益であるかどうかを特定するためのテストとして行われた。この時点まで$AAVEを一切流動性マイニングを通して配らずに、最大規模のLendingに成長したことは大きな偉業である。

このプログラムでは、通常の金利に加えてstkAAVEがUSDC, DAI, USDT, ETH, wBTCなどのdepositer/borrowerに配布されることとなった。2021年の4月26日より開始したが、以下のように数週間の間にTVLは一気に4倍の$20Bまで膨れ上がった。

キャンペーンの仕組みも精密に設計され、報酬のほとんどをステーブルコインに寄せることで、安定収入を狙ったユーザーが預け入れを行うインセンティブを作り出した。このキャンペーンはTVLの増加だけでなく、Aave v1からv2への移行を後押しする目的もあった。このプログラムはAIP16で提案されており、興味がある人は中身をぜひ見てほしい:https://aave.github.io/aip/AIP-16/

このキャンペーンでは純粋なAAVEトークンではなく、stkAAVEを配ることにより、短期の投機目的のユーザーのインセンティブを減らすことに成功している。他のLendingによる流動性プログラムとは異なり、目的を見失わないと同時に、自エコシステム・トークンの質を落とさない緻密な設計は非常に勉強になる。

実はこのAIP16で提案された流動性マイニングプログラムはその後も延長を続け、つい最近の2022年5月まで行われていた。

流動性マイニングプログラムに関する提案の一覧(多すぎ!)

しかし、延長を続けてきたAaveの流動性マイニングプログラムも、現時点では終了している。

流動性マイニングプログラムを更に延長する提案もされているが、ベアマーケットということもあり、コストがかかりすぎることから現時点では行われていない。

Aaveのフォーラムにおける流動性マイニングプログラムに関する最近の議論

ここまで一連のAaveと流動性マイニングプログラムの変遷を辿ってきたが、多くのプロジェクトがデフォルトでいつでもこのプログラムを行なっている中、Aaveでは90日ごとに延長のプロポーザルが出されているに見える。これにより、定期的に市況などを踏まえて現在は流動性マイニングプログラムを行うことに適している時期なのかが見直され、不必要な場合は行わない、という方向で健全にガバナンスが働いている。これは、流動性マイニングを行わずとも流動性は抜けていかないAaveのプロダクトとしての完成度があってこそなのではないか。このように、柔軟に流動性マイニングをコントロールできることで、不必要なガバナンストークンの流出を抑えることに成功している。

流動性マイニングプログラムはグロース戦略としてショートカットになりやすいが、ここでしっかりと設計がされずに行われてしまうと、プロジェクトは破滅に追い込まれてしまう。そういった点では、Aaveの流動性マイニングプログラムとの向き合い方から学べることは多いのではないだろうか。

参考

introduce Liquidity Incentives for Aave v2 | Aave Improvement Proposals

Proposal: Introduce Liquidity Incentives for Aave v2 - #17 by defi_stalker - General - Aave

Aave v2 launches liquidity mining program targeting stablecoin borrowers

分散型融資大手アーヴェが流動性マイニングプログラム開始へ 新規ユーザー引き付けるか | Cointelegraph | コインテレグラフ ジャパン

ARC - Continue Liquidity Mining Program on Aave V2 Ethereum market and Introduce Liquidity Mining on Aave ARC market - General - Aave

Aave Ends Rewards In Latest Blow To Yield Farmers - The Defiant

直近のAaveにおける流動性マイニングプログラムのForumでの議論

フラッシュローンについて学ぶ

DeFi周りをリサーチしているとよく「フラッシュローン」という単語に遭遇する。これは、Ethereum上のLendingの一つであるAaveの独自サービスであり、現在では、様々なDeFiでフラッシュローンが実装されている。フラッシュローンは、ブロックチェーンの特性を活かした取引であり、現実の取引所や金融資産では行えなかったので『There is no real world analogy to Flash Loans』という説明がしばしされる。そんなフラッシュローンの概要をまとめる。

フラッシュローンってなに?

フラッシュローンとは、スマートコントラクトによって実行される新しいタイプの無担保ローンである。従来のDeFiレンディングでは、借り入れに担保が必要である(当たり前)。そして、借りる側は担保価値のおよそ75%分しか借り入れることができない。しかし、フラッシュローンでは、同じトランザクションでローンを返済できる限り、無担保で上限なく借り入れを行うことができる。一度のトランザクションで借入と返済を処理するため、高額な借入を行ったとしても金利はほとんど発生せず、ガスのみがコストとしてかかるのが特徴である。Aave、dydx、bZxをはじめとするDeFiプロトコルがレンディングプール内の未活用(借りられていない)資産を活用する方法として提供している。 (利息は発生しないが、手数料が発生する場合がある。Aaveは借入額の0.09%が手数料、dydxとbZxは無料。)

フラッシュローンはシングルトランザクション内でアビトラの処理や返済(aaveは手数料も支払う必要あり)ができなければ処理はリバートされる。起点の借り入れと、出口での返済が整合したら、トランザクションは成功するが、担保割れ設定などによって途中で失敗が起こると、トランザクション全体が失敗に終わる。いわゆるアトミックトランザクションであり、全て成功するか、全部何も起こらないかのどちらか、ということになる。

フラッシュローンのユースケース

フラッシュローンの主な利用用途としては、DEX (分散型取引所) 間の価格差から収益を得るアービトラージが挙げられる。よって、フラッシュローンは暗号資産取引所間での価格安定性を高め、究極的には暗号資産エコノミーを強化する一方で、悪意のある方法で使用されることもある。

フラッシュローンを利用した攻撃の事例として一番有名なのは、2020年2月に発生したdydxフラッシュローン事件である。あまり攻撃の詳細には踏み込まないが、bZx、dydx、Fulcrum、Compound、Uniswapのプロトコルを使用したフラッシュローン事件であり、基本的にはアービトラージ取引とbZxのコントラクトバグを突いた複合的なハックとなっている。担保をデポジットする必要がないため大きな金額をレバレッジすることが可能になる、というフラッシュローンの仕組みと、スマコンのバグを組み合わせた巧妙な攻撃である。

bZxハックの流れ

まとめ

フラッシュローンは、開発者のみしか利用することができないため、スポットライトが当たりにくいが、通常通りに使用されれば、アービトラージなどによりDEXの価格を安定させると同時に、開発者もガス代のみで利益を生み出すことができる便利な機能である。しかし、無担保で流動性がある限りの金額を誰でも動かせることから潜在的なスマコンのバグを悪用されてしまう可能性も十分あるため、注意したい。どうやらAaveのフラッシュローンはテストが簡単であるっぽいので、テストネットでまた後日試してみようと思う。

 

参照

https://alis.to/CryptoChick/articles/azDdNV9mzvrp

https://yuyasugano.medium.com/%E7%A7%92%E9%80%9F%E3%81%A71%E5%84%84%E5%80%9F%E3%82%8A%E3%81%A6%E8%BF%94%E3%81%99-aave-flash-loan-in-ropsten-ebef622760cd