クリプト道場

クリプト・ブロックチェーンに関わる疑問を解説します

Aaveによる健全な流動性マイニングとの向き合い方とは

現在のようなクリプトの真冬の中では、Lendingプラットフォームの需要は非常に高い。DEXのようにimpermanent lossに晒されることもなく、すっかり安くなってしまった自分の資産を売らずにレバレッジをかけることができるLendingは非常に魅力的である。

2022/6/11時点のLending TVLランキング

上記が執筆時点でのDefilLamaにおけるLendingのTVLランキングであるが、トップであるAAVEとそれ以外のLendingには大きな違いが一つ存在する。それはAAVEでは、ガバナンストークン(AAVEにおける$AAVE)をDeposit(貸出)またはBorrow(借入)した際に配っていないということである。正確には、現在配っていないだけであり、過去にはAaveも配っていたことがある。ただ、Aaveと他のプロジェクトには流動性マイニングとの関わり方に大きな差が

存在する。

クリプトプロジェクトにおけるガバナンストークンはWeb2には存在しなかった画期的な存在である一方で、使い方を間違えてしまうと一気にプロジェクトを破滅に追い込んでしまう諸刃の刃である。a16zのブログにも書いてある通り、トークンは、Web2サービスにおいて存在したコールドスタート問題を解決してくれる起爆剤であり、ほとんどのLendingプラットフォームでは、DepositまたはBorrowをしたユーザーにはAPRベースでガバナンストークンを配っており、成長のドライバーとなっている。ただ、残念なことにほとんどのLendingプロジェクトによる流動性マイニングプログラムは健全とは言うことができず、お金配りによってユーザーを繋ぎ止めてるといった状況である。その中でAaveは上手に流動性マイニングを活用しており、この記事の中で概要に迫る。

そもそもAAVEとは?復習

AAVEは2020年1月にEthereum上でローンチしたLendingプロジェクトである(現在はマルチチェーンでデプロイされている)。EthereumかつLendingといえばCompoundも思いつくが、Compoundより後発ながら着実にトラクションを確保し、現在では最も使われているLendingである。両者は基本機能は同じであるが、AAVEの方が圧倒的に多機能である。例えばAAVEで初導入された固定金利システムやフラッシュローンは、大きな注目を集めた。そして、最重要項目である取り扱い銘柄については、Compoundは非常に慎重に選定するコミュニティガバナンスが機能しており、安全性を重視していると言える。Aaveが安全性を重視していないということでは決してないが、Compoundはこの点において安全性を最も重視しているプロジェクトだと言える。

AAVEの流動性マイニング変遷

AAVEのTokenomicsや成長戦略に踏み込んでしまうと、長い話になってしまうので、このブログではAAVEと流動性マイニングに話題を絞って書こうと思う。

元々Aaveのチーム・コミュニティは流動性マイニングについては否定的であり、既にオーガニックで成長しているなら必要ないという声が多かった。そんな中、2021年の4月に7月まで限定期間で、流動性マイニングプログラムが行われることが発表された。これは、流動性マイニングがAaveのエコシステムに有益であるかどうかを特定するためのテストとして行われた。この時点まで$AAVEを一切流動性マイニングを通して配らずに、最大規模のLendingに成長したことは大きな偉業である。

このプログラムでは、通常の金利に加えてstkAAVEがUSDC, DAI, USDT, ETH, wBTCなどのdepositer/borrowerに配布されることとなった。2021年の4月26日より開始したが、以下のように数週間の間にTVLは一気に4倍の$20Bまで膨れ上がった。

キャンペーンの仕組みも精密に設計され、報酬のほとんどをステーブルコインに寄せることで、安定収入を狙ったユーザーが預け入れを行うインセンティブを作り出した。このキャンペーンはTVLの増加だけでなく、Aave v1からv2への移行を後押しする目的もあった。このプログラムはAIP16で提案されており、興味がある人は中身をぜひ見てほしい:https://aave.github.io/aip/AIP-16/

このキャンペーンでは純粋なAAVEトークンではなく、stkAAVEを配ることにより、短期の投機目的のユーザーのインセンティブを減らすことに成功している。他のLendingによる流動性プログラムとは異なり、目的を見失わないと同時に、自エコシステム・トークンの質を落とさない緻密な設計は非常に勉強になる。

実はこのAIP16で提案された流動性マイニングプログラムはその後も延長を続け、つい最近の2022年5月まで行われていた。

流動性マイニングプログラムに関する提案の一覧(多すぎ!)

しかし、延長を続けてきたAaveの流動性マイニングプログラムも、現時点では終了している。

流動性マイニングプログラムを更に延長する提案もされているが、ベアマーケットということもあり、コストがかかりすぎることから現時点では行われていない。

Aaveのフォーラムにおける流動性マイニングプログラムに関する最近の議論

ここまで一連のAaveと流動性マイニングプログラムの変遷を辿ってきたが、多くのプロジェクトがデフォルトでいつでもこのプログラムを行なっている中、Aaveでは90日ごとに延長のプロポーザルが出されているに見える。これにより、定期的に市況などを踏まえて現在は流動性マイニングプログラムを行うことに適している時期なのかが見直され、不必要な場合は行わない、という方向で健全にガバナンスが働いている。これは、流動性マイニングを行わずとも流動性は抜けていかないAaveのプロダクトとしての完成度があってこそなのではないか。このように、柔軟に流動性マイニングをコントロールできることで、不必要なガバナンストークンの流出を抑えることに成功している。

流動性マイニングプログラムはグロース戦略としてショートカットになりやすいが、ここでしっかりと設計がされずに行われてしまうと、プロジェクトは破滅に追い込まれてしまう。そういった点では、Aaveの流動性マイニングプログラムとの向き合い方から学べることは多いのではないだろうか。

参考

introduce Liquidity Incentives for Aave v2 | Aave Improvement Proposals

Proposal: Introduce Liquidity Incentives for Aave v2 - #17 by defi_stalker - General - Aave

Aave v2 launches liquidity mining program targeting stablecoin borrowers

分散型融資大手アーヴェが流動性マイニングプログラム開始へ 新規ユーザー引き付けるか | Cointelegraph | コインテレグラフ ジャパン

ARC - Continue Liquidity Mining Program on Aave V2 Ethereum market and Introduce Liquidity Mining on Aave ARC market - General - Aave

Aave Ends Rewards In Latest Blow To Yield Farmers - The Defiant

直近のAaveにおける流動性マイニングプログラムのForumでの議論